どうも、RyeChemです!
今回の記事は【研究職の職場異動/ジョブローテーションに関して】です!
入社後に「職場異動になったら…」と不安を抱える人も少なからずいることでしょう。
特に、志望していた職種で採用されたからには、その職で勤め上げたいと思いますよね。
実は、異動という観点では、メーカーの研究職は他業界・業種と比較すると少し異色と言えます。
今回の記事では、“研究職”のジョブローテーションについて徹底的に解説していきますよ!
- 研究職志望の学生の方
- 研究職への転身を考えている方
- 他業界・他業種のジョブローテーション事情を知りたい方
Contents
ジョブローテーションとは?
まず初めに、『ジョブローテーション』から解説していきます。
ジョブローテーション
定期的な配置転換による社員の能力向上を目的とした、人事計画に基づいて行われる“戦略的な”部署あるいは職務異動のこと
ジョブローテーションと単なる人事異動は全く違う
“ジョブローテーション”と“人事異動”は混同されがちですが、計画に基づいた人材育成という点で違いがあります。
ジョブローテーションはあくまで人材開発・育成をメインとしています。
一方、人事異動は社員あるいは企業側の思惑による配置転換であり、そこには計画的な育成という観点は存在しません。
あくまで過剰なリソースを必要な部署にあてる、という経営方針上の特定部門の強化や欠員補充、組織の活性という側面がメインなのが人事異動と言えます。
企業規模が大きいほどジョブローテーションする傾向にあり
ジョブローテーション制度は企業規模が大きいほど実施される傾向にあります。
勿論、業界によって頻度は違えど、傾向としては同じことが言えます。
というのも、企業母体が大きい=人材育成に掛ける余力があるからです。
ジョブローテーションは異動直後は生産性が低下することもあり、人手に余力がなければ取り組むことが難しい制度です。
育成した人材がリーダーポジションへと配置される頃には大きなリターンを生みますが、あらゆるコストの先行投資が必要になるのです。
最低限度の人員でビジネスを運営しがちな中小零細企業ではあまり導入されません。
ジョブローテーションの“5つ”のメリット
では、ジョブローテーションの一般的なメリットには何があるでしょうか。
ここでは従業員目線でのメリットを考えると以下“5つ”の項目が挙げられます。
ジョブローテーションのメリット
- 複数の業務経験を経て、視野が広げられる
- 実務を通じた適正を知ることができる
- 他部門との交流機会の増加
- 業務の属人化を防ぐ
- マンネリ化を抑制する
複数の業務経験を経て視野が広げられる
ジョブローテーションの本来の趣旨である戦略的な部署/職務異動に一番合致したメリットが『複数の業務経験』になります。
会社内の単一職場の経験しかなければ、“専門性”も“取得スキル”にも幅を持つことはできません。
特に、“業務視野”は狭まる一方で自分の中で最適化された方法論でしか物事を推進できなくなっていきます。
ポイント
いつでもブレイクスルーは当たり前の範囲外に存在するので、視野を広げ、アイデアに創造性を持たせることが重要です。
加えて、会社は組織であり、各部署の連携によりプロセスを進行し、利益を生み出しています。
どんな部門においても業務上の“関連部署”が存在するため、関連部署に関する実務経験を有していれば、より円滑な業務の推進を行うことが出来るのです。
実務を通じた適正を知ることができる
従業員にとってのジョブローテーションの大きな利点は『適正を知ることができる』ことでしょう。
ジョブローテーション制度がない企業では、多くは入社当時に配属された職場で長年勤めあげることになります。
入社時の希望部署への配属というのは社会経験に乏しい学生が考えた、いわば“空虚な像”に基づいた自身の適正を考慮したものでしかありません。
本当に現職場が自身の適正にマッチしているのかは他部署の実務経験を経なければ不明瞭です。
「もしかしたらより最適な職務が存在する」ということも往々にしてあるでしょう。
他部門との交流機会の増加
一般に、社内での交流機会は同部門・同職場の社員に圧倒的に偏り、他部門との交流はさほどありません。
特に、企業規模が大きくなれば部門の壁はさらに厚くなります。
しかしながら、上述した通り、会社は組織でありチーム戦です。
他部門との円滑なコミュニケーションは業務の効率化を果たす上で非常に重要な要素です。
ジョブローテーションを通じて、社内でのコミュニケーション網を拡張することで自分に有利な環境を形成することができます。
業務の属人化を防ぐ
特定の業務を同一社員が長い間担当していると、経験・知識の伝承がされにくくなります。
つまり、“業務が属人化”し、特定社員への依存度が高まった状態に陥ります。
今の世の中、転職は普遍であること、病気やケガなどで休職することにより業務が滞る可能性を孕みます。
基本的には業務は誰でも実施可能な状態へ近づけていくのが優秀な企業の在り方です。
常にハイパフォーマンスを継続し続けるために、業務の属人化は予防しなければなりません。
従業員から見ても、自身が忙しい時期に「あなたしかできないから」と仕事を申し付けられるのは避けたい事柄の1つです。
「自分しかできない」というのは優越的な思考に陥りやすいですが、トータルで見れば従業員も社員も得をしません。
マンネリ化が抑制できる
同じ職場に長年携わると、自身の経験の範疇で物事が実施可能になり、真新しいことが減少していきます。
成長が止まるのは勿論のこと、精神的な面でも刺激がなく“マンネリ化”していきます。
意欲的な姿勢でなくなることは、パフォーマンスの低下に直結します。
ジョブローテーションを経て、新しきに触れることでマンネリ化を防ぎ、常に吸収意欲を継続させることができます。
ジョブローテーションの“3つ”のデメリット
皆が想像し不安に感じるところでもありますが、ジョブローテーションのデメリットを解説します。
ジョブローテーションのデメリット
- 社員のモチベーション低下
- 異動先では再度新人
- 専門性が向上にしにくい
社員のモチベーション低下・転職リスク増大
第一に挙げられるデメリットは『モチベーション低下』でしょう。
恐らく、皆が不安に思う最も大きな項目の1つです。
1日の大部分を占める“仕事”に対して正のイメージを持つことは人生の充実度を大幅に向上させるといっても過言ではありません。
そのため、希望部署・愛着のある職場から離れることはやはり容認しにくいこと。
加えて、ジョブローテーションを行えば自然と“比較対象”ができてしまいます。
ローテ先の職務・職場に馴染めなければ、優劣を判断し、相対的に「ローテ失敗、辛い環境」と負のイメージが増大します。
結果としてモチベーション低下による転職リスク増大へつながります。
異動先では新人となり新たな技能取得に迫られる
ローテ先では当然入社年度に関係なく、1から仕事を覚える新人となります。
場合によっては年下の後輩社員に指示を受け、業務を担当することにもなるでしょう。
プライドの高い社員にとっては受け入れがたい環境となるかもしれません。
特に、異動後は新たな知識・技能の取得を強制されることとなります。
人間は“楽な方向へ進む”のが当たり前に有する性質です。
多くが仕事に対して正のイメージを持っていないので、できる限り「楽したい」と思うことでしょう。
ポイント
長年同じ業務に携わっていると、段々と自分の経験則(当たり前)の範囲内で物事を解決できるようになります。
この状態は“新しいことに触れ続ける”よりも圧倒的に楽な状態と言えます。
ただし、ジョブローテーションは言わば“安定した環境”から離れ“不安定な環境”へと移し、社員の成長を強制的に促す制度です。
なので、安定志向の社員にとっては大変に感じてしまいます。
専門性が向上しにくく、スペシャリストになりにくい
ジョブローテーションの弊害としては、“専門性が身に付きにくい”ことが挙げられます。
ジョブローテーション期間中は当初の職場から離れ、本来の専門性が得られません。
職務のスペシャリストを目指す方にとってはジョブローテーションはある意味不要に感じ、受け入れがたい制度と言えます。
研究職視点でのジョブローテーション
一般的なジョブローテーションに関しては上述した通りのメリット・デメリットを有しています。
では『メーカー研究職』の視点ではどう活きる制度なのでしょうか。
実務上の経験を交えて詳細に解説していきますよ!
研究職特有のジョブローテーションのメリット
- 製品化スピードの圧倒的な効率化を図ることができる
- 多種多様な分析技術・製品技術の知見取得
- 転職時の強い武器に
研究職特有のジョブローテーションのメリット
実は研究職にとってジョブローテーションは非常に有意義な制度と言えます。
製品化スピードの圧倒的な効率化を図ることができる
ジョブローテーションの制度を研究職視点から考慮すると、最大のメリットは『効率化』にあります。
研究には製品化に至るまでの種々の研究ステージがあります。
- 探索研究
- (改良研究)
- 工業化研究
- (プロセス開発研究)
- 試製研究
一般的に“研究職のジョブローテーション”は各研究ステージへの異動または担当テーマの変更に伴う異動のどちらかとなります。
特に、研究ステージの異動の場合には企業の“研究者”として圧倒的な経験を積むことが可能となります。
具体的には、探索研究から改良研究へ異動した場合。
改良研究では既存製品のさらなる横展開を行い、顧客ニーズ・時代に沿った性能改善を行います。
身近な例では、消臭技術を利用した“脇向け”・“足向け”・“衣類向け”・“トイレ向け”などの用途拡充が挙げられます。
化学・素材メーカーでも改良研究は往々にして行われ、特に主力製品に関しては確実に行われています。
ポイント
探索研究の経験を有していれば、どこが性能発現のキーになるのか、構造変更がどう性能に影響するかをある程度容易に判断できるようになります。
つまり、改良研究を行う上でのスクリーニングが非常に効率よく進めることができ、改良品の開発スピードが向上します。
他にも、例えば、工業化研究から探索研究へ異動した場合。
工業化研究の業務としては探索研究により生まれた開発品の暫定処方を製造用へとスケールアップすることがメインとなります。
- 開発品コストの低減
- 開発品の収率・純度の向上
- 開発品の処方工程数の削減
- 安定生産可能な処方の組み上げ・改良など
探索研究時点で組み上げる処方をそのまま実機製造へと転用することはほぼ不可能です。
小スケールでの検討時には生じなかった様々な問題の解決や、より開発品の優位性を向上する処方構築が求められます。
例えばこれら経験に基づいて探索研究へと移動することが出来れば、探索段階から工業化を見据えた処方構築が可能となります。
ポイント
研究職のジョブローテーションの恩恵は、自身が担当する研究ステージあるいはその後の研究ステージの効率化を図ることが出来るということ。
自身の研究の効率化を図ることが出来るだけでなく、後工程の効率化を図った研究推進が可能となり、その効果は絶大です。
“研究者”として多くの研究ステージの経験を経ることは非常に有意義なことなのです。
多種多様な分析技術・製品技術の知見
次に、“分析技術・製品技術の知見”を得ることができることです。
研究ステージだけでなく、担当テーマに関する異動をした場合。
テーマごとに使用する分析装置や使用されるコア技術は変わります。
例えば、反応追跡・構造決定にはGC・LC・MS・NMR・GPCなどを使用したり、物質特性を知る必要があるなら熱分析や誘電率、粘弾性など測定可能な装置を使用するでしょう。
基本的には、単一のテーマのみ研究を行うと使用する装置や技術は限られ、研究者としての幅は広がりません。
広い知識・視野を持つことで、同じ結果からでも研究成果を挙げるチャンスを増大させることができます。
ジョブローテーションの本来の目的である人材育成の観点で見れば、様々なテーマに携わることで研究者として確実に成長可能です。
転職時の強い武器に
ある意味、ジョブローテーションの副次的な効果ですが、研究者としては転職の強い武器になります。
基本的に企業で単一のテーマにしか携わっていなければ、限りなく狭い転職先しかありません。
転職先の企業が望むのは“即戦力”としての研究者です。
企業研究者は企業の専門性に特化するあまり、“汎用性”に欠ける性質があります。
品質や製造出身者が汎用的であるのに対し、研究者の専門性は一般性に欠け、社外で通用しにくい実態があるのです。
その点では、ジョブローテーションにより広範な技術・知見を有していれば、選択肢を広げることができます。
企業の研究者としてはスペシャリストではなく、流動性の高いジェネラリストが転職においては強いのです。
研究職特有のジョブローテーションのデメリット
では、素晴らしいメリットの裏側に潜むデメリットは何があるでしょうか。
専門性を深める時間が足りない可能性
研究職に特有の唯一のデメリットとしては、専門性を深める時間が足りない可能性があるということです。
特に、部署で裁量を持たせてもらえなかった社員(若手研究員)には当てはまる可能性が高いです。
企業の研究はほぼ確実にチームでの推進が成されるため、メンバーごとに裁量の度合いが異なります。
若手の内は、ブレインとしてよりは作業者としてチームに貢献することが多く、職場によってはあまり思考する時間がなかったりします。
その中で、担当テーマの周辺知識や基礎知識、研究推進上必要な専門知識の取得に割く時間が限られる側面があります。
自身が担当分野に対して自信を持って他者にアウトプットできるほどの専門性を獲得する前に異動となれば、中途半端でその後のキャリアに十分活かせる経験に昇華させられない可能性を孕むのです。
業務能率や意欲に個人差があるため、上司が見極め、良いタイミングでジョブローテーションを実施されなければ返ってデメリットに変化してしまいます。
研究職のジョブローテーションの頻度
では、研究職のジョブローテーションの“頻度”はどの程度あるでしょうか?
メリットが多いとはいえども、保守的な方にはあまり嬉しいとは言い難いかもしれません。
化学・素材メーカーでは扱う製品分野・製品群の幅が広大で、世の流れに機敏に追従する必要があります。
そのため、職種間の異動(研究⇒開発、品質、製造、事務系)は少なくとも、研究内では比較的多く異動があります。
大抵の研究者が“5年に1度”は異動を経験することでしょう。
入社前や若手のうちは頑なでも、次第に心は変化していくものです。
学部4年から大学院2年までのアカデミックで行う研究より長い期間を様々な研究を目の当たりにする中で、同一テーマを続けたいと考える人の方がマイナーかもしれません。